2》戦車に乗っていた

真夏の太陽に照らされて、庭の向こうにゆっくりとガレージから出て来るウハチさんの車が見えました。うちの門の向こうのいつもの位置で一旦停まります。それから老人特有の慎重な動きで運転席から降りてきました。出かけるときは必ずガレージの扉をまた降ろすのですが、その日は手に青いバケツを持っていましたから、車の掃除をするつもりなのでしょう。開け放した縁側から見ている私に気がついて、
「今日も暑いね」と笑いかけて来ました。

紺色の作業帽をかぶり作業用のシャツとズボン、黒いゴム長をはいています。 買い物や病院に出かける時は、きちんとアイロンのかかっているチェック柄のシャツにゆったりとしたベージュのズボンなどをはき、かなり小柄で痩せた身体でしたが、貧相に見せない上品さがありました。そんな姿から「この人は土地の人ではないな」と最初から分かりました。 しかし後で知ったことですが、ウハチさんには、アメリカという異国の臭いも入っていたのです。

ホースで水をジャージャーとかけるというやり方は決してしません。
「水でぬらした雑巾で拭いた方が車には良いのだよ」というのがウハチさんの自説でした。手元を見ると、布ではなくてセーム革を使っています。上等のセーム革らしいのですが、もうすっかり灰色になっていて良く使い込んでありました。

ボンネットを開けて中の機械まで拭いているのを見た私は、
「エンジンのパイプまで磨くんですねえ」と驚いて言うと、
「僕は戦車に乗っていたからね、どうしても中まできれいにしないと気が済まないんだよ」という答えが返ってきました。

初めてウハチさんの<戦争>に触れた瞬間でした。