6》パチラの木

その日も片手に肉の入ったアルミホイルを掲げながらやってきたウハチさんは、軒下に置いてある観葉植物に気がついて、
「これパチラって言うんだよ。フィリピンにはこれのでかいのが生えてるんだよ」と言いながら、両腕で丸い輪を作って幹の太さを教えようとしました。

「竹だってむこうのはでかいよ、しかも日本のみたいに中が空洞じゃないんだから。竹を使いたくてナタで伐ってみたら、スカスカしたようなのがぎっしり詰まっていたから驚いた。これじゃ使えないなって諦めたけどね。あそこは熱帯のジャングルだから、何でもすぐにでかくなっちゃうんだろうな」と、ヤシの実の殻に植え込んであったパチラの小さな苗を懐かしそうに眺めていました。

「ムカデもでかかった」とは、ムカデがきらいなわたしには恐い話でした。山間のこの辺りでは夏になるとムカデが家の中に入ってきて、年に2、3回はぎゃーと悲鳴をあげていたのですから。
「ムカデは良い出汁がとれるんだよ。ムカデが出た時にふっとフィリピンのことを思い出して、女房に内緒で味噌汁に使って、『どうだ、おいしいだろう』と聞いたら、『おいしいわね、何の出汁?』と聞くから、『ムカデだ』って言ったら、怒ってね。それきり食べなかった」と、笑っていました。

わたしたちはウハチさんの奥さんには会ったことはありません。その10年ほど前になくなっていました。