17》体に刺さった鉄片

「そのときの破片がおれの体にはまだ入ってるんだよ」
「どこに?」と、ちょっと得意そうな顔して縁側に座っているウハチさんの胸から足元までわたしは見回しました。
「大きいのはアメリカ軍の病院でとってくれたんだけど、小さくて完全に取りきれなかったのが腰のあたりにあるんだよ」
「そのまま放っておいて痛くないんですか?」
「梅雨時になるとどうしても痛くなるね」と、腰の横に手を当ててさすってみせました。
「慶応病院に専門の先生がいてね、いろいろ診てくれたんだけど、結局これしかないという特別な注射を打ってもらってるんだよ。背中のここらへんに打つんだけど、それが太い注射でね、そりゃあとっても痛いんだよ。でもそれをやればひと月楽になると思うから我慢するんだ。でもその注射は月に1回しか打っちゃいけないものなんだってさ」

こういう話しを聞いていると、わたしはどうしても顔が歪んでしまいます。そうするとますます調子に乗ってくるところが、ウハチさんのやんちゃなところでもありました。ニヤッと、もっとおもしろいことを聞かせてやろうかというように、
「捕虜収容所から出されてアメリカ軍で働き始めた頃にね、『どうも息が苦しい』と言ったら、同僚のアメリカ兵が『軍医に診てもらえよ』と言うので軍病院に行ったのさ。そしたら肺に刺さっている破片が見つかったんだよ。でももうすっかり肺にめりこんじゃってて、これを手術で取り除くのは無理だと言うんだ。でも放っておいたら生きられないってね」

自分でけがをした傷口を見ても心細くなってしまうのに、その話しを聞いているときのわたしの顔はきっと青ざめていたと思います。でも聞かずにはいれない、
「で、どうしたんですか?」目の前にウハチさんが生きているということは、その時何とかしたのでしょうから。
「軍医が変わった人でね、『おまえが承諾すればやってみたいアイデアがあるんだが』って言うから、仕方がないから『何でもやってくれ』って言ったよ」

そのアイデアというのは、強力な磁石を使って少しづつ破片を外に引っ張り出すというものでした。
「床に固定した椅子に座らされたんだよ。背当ての方を向いて椅子に股がってね、背当てと胸を紐でぐるぐる巻きに固定された。ぜんぜん身動きができないんだ。それから磁石の機械を少しづづ様子を見ながら限界の距離まで背中に近づけるんだよ。すると体の中でその鉄片がほんの少しだけど動くんだね。そりゃ痛いなんてもんじゃない。そういうのを毎日毎日数時間、まるで拷問だったよ」

何ヶ月も続いたこの治療は、ミリ以下の単位で肺の中の鉄片は背中の方へ少しずつ移動させるというものでした。治療に使われた大掛かりな機械も、わざわざその為だけに作られたものだったそうです。その異様で画期的な治療方法を見るために、方々から視察団が見学にきたそうです。

「ずいぶん偉い人たちが見に来てたらしいよ。おれはただ唸ってたんだけどね」
わたしはもう聞いているのがやっとでした。この日はすっかり気持ち悪くなってしまいました。

その鉄片は、肺から引き出されて手術し易い場所まで移動されてから取り除かれたそうです。アメリカ軍と殺し合いをしたウハチさんなのに、そのアメリカ軍に今度は苦しめられながらも助けられたのでした。