19》命令

「もうどの部隊も半分は死んじゃってたからね、兵隊が少なくなった部隊は他の部隊に編入されたりしたんだよ。」

サラクサク峠では、戦車隊や航空隊の生き残りの兵隊たちが歩兵部隊に編入されて戦っていました。そういう兵隊たちは、決まって最前線の陣地に配備されたそうです。そこでは直属の上官が替わるということは、死に近づくということに繋がっていました。

「やっぱり満州からずっといっしょに戦ってきた仲間の方が安心だし、チームワークだって良いんだよ。それに隊長だって最初っから自分の部下だった兵隊を大事に残しておこうとするわけさ。だから命令にも差を付けちゃうんだよ」そんな凄まじい状況ではないにしても、自分にも過去似たようなことがあったなあと思いながら聞いていました。
「そういうことって学校とか会社なんかにもありそうなことですねえ」
「そうだよ、会社だって同じだよ。上司が直属の部下ばかり可愛いがったりしてるけどね、生きるか死ぬかって時にそんなことしてたら判断を誤っちゃうよ。そんなやつには良い仕事はできないよね」と、切り捨てるように言いました。ウハチさんは戦争に行く前も帰ってからもずっと東電の社員でもあったのですが、きっと会社でも苦い思いをしたことがあるのでしょう。

「おれが何度も斬り込みさせられたのは、それまでずっといっしょだった隊長がいなくなってからだよ」と、その頃の上官や隊員の名前をいちいち挙げながら話してくれたのです。ウハチさんたちが本隊から離れてしまって、密林の中を6人ほどで転進している時のことです。軍隊の中では一人一人の階級が厳密に決められていて、いちばん上の人がいなくなれば、すぐ次の階級の人が命令権を持つのです。

「斬り込みったって、もうあの頃じゃ大して意味はなかったはずなのに、とにかく行ってこいだからね。死んでこいと言ってるようなもんだ」と、今でもまだそうとうに恨めしそうなのでした。

もうその頃になると、司令部との連絡が途絶えてどの部隊もバラバラに分断されてしまっていたのです。孤立した小さな部隊の中での命令の中身は、隊長の人格によってずいぶん左右されたということのようです。