28》サリナスの塩

「『撃』はね、バレテとサラクサクの後すぐに山に逃げたわけじゃないんだよ。サリナスでも戦ってるんだ」
「えっ、サラクサク峠での戦闘でそうとうやられたんでしょう?まだ戦えたんですか?」と、驚いてしまいました。イムガン川でも、かなりの兵隊が溺れたと聞いていたからです。
「たしかにもう『撃』は壊滅的だったけどね、それでも再編成すればまだ戦えると見られたんだよ」
「再編成ですか、、、武器や弾なんかまだあったんですか?」
「日本は戦車から重機関銃を外してそれを持ち歩いてまでして戦っていたんだ。こっちはわざと地形の悪いところに陣地をはっていたわけだね、、、」

「、、、サリナスは最後の決戦だね、あれで負けて完全に戦力を使い果たしちゃったんだ」サリナスを地図で探すと、軍司令部がバギオから山越えして逃げたルート上にありました。
「やっと持ちこたえていた輜重隊も、あそこではずいぶんマラリアと熱病で死んでるんだよ」
輜重隊の兵隊は3人ひと組になって、牛用の荷車を引いて運んだそうです。
増水した川を渡るときには、またもや背負子での人力輸送でした。

そんなボロボロに疲れていた輜重隊に、司令部から特別の任務が届きます。すでに敵兵がいるサリナスに忍び込んで、製塩所から塩の袋を運び出してこいというものでした。これから山岳地帯を通って転進して行く部隊にはどうしても塩が必要でした。

「まだ動ける元気な輜重隊の兵隊は、全員で紐だけを持って他に何も持たず丸腰で出かけたんだそうだよ。暗い中をずっと匍匐前進で何とか敵に気づかれずに運び出したところで、軍用犬に嗅ぎつかれちゃって、一斉射撃を受けたんだそうだ。それでも全員無事に帰還したんだからね、ヤマモト中隊も大したもんだよ。あの塩がなかったら後の行軍で確実にもっと死んでたな」

ルソン島の日本軍には、食料だけではなく塩さえも不足していたのです。6月20日の深夜のことでした。