47》原子力発電

日本初の原子力発電所が建設された時期と、ウハチさんが東電を定年退職した時期は重なります。
「ちょうど原子力発電所の査察の仕事の話が来てね、ちょっと迷ったけど、給料も良かったからやることにしたんだよ」
コンクリートの厚さを計ったり建物の材質や強度を調べたり、安全基準を満たしているかどうかを調べるのが仕事でした。
「でももし放射能漏れがあったりしたら、怖いでしょう?」
「いやぜんぜん危険じゃないよ。稼働する前だから原子炉の中だってまだ空っぽなんだ。毎日旅行しているような気楽な仕事さ」
現地に到着すると接待係が運転手付きの車を用意して待ち構えていたそうです。査察もそこそこに、
「さあどうぞどうぞ、ってすぐに旅館や料亭に連れて行かれて昼間っから宴会なんだ。土産なんかも持てないくらい渡されるから、先に家に送ってもらっていたよ」

第三者機関として独立しているはずの査察チームに電力会社の元社員が就くのは変だなあとは思いましたが、ウハチさんはそれは承知で引き受けたのでしょうか。ニュースでは原発反対集会や原潜の入港を阻止しようとデモをしている人達を見ていたので、どうにもスッキリしない気持ちで聞いていました。

「皆が心配しているようなものじゃないよ。しっかり作ってあるんだから、あんたたちも機会があったら見たら良いよ」
しかしそう言われても、素直に「はい」とは頷けませんでした。
「おれもそろそろ80だ。あんたたちには遥か遠くさ」

ときどき横田基地に出かけると言っていたウハチさんは、戦後もずっと米軍から年金をもらっていたようです。その日は午後もだいぶ遅い時間にやって来て開口一番、
「今日は最後の軍人年金をもらってきたよ」少しホッとした顔をしているようにも見えました。

基地のゲートを入って行く老人のウハチさんを想像してみるのです。
年金係の女性と世間話をする。特別変わった報告もないのでこの日は奥の部屋にも立ち寄らず、ノートにはただ日時が書き込まれる。アメリカ軍はOBであるウハチさんから情報を細かく収集し続けていたということもあったのでしょうか?